概説 遺伝子工学 ―誕生から今日まで,そして未来へ
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1. 遺伝子工学とは
本書では、遺伝子・DNA・核酸を中心とし、それらに関連する物質を対象にする分析・加工・作製・増幅・機能解析・利用にかかわる操作を「遺伝子工学」という用語で括って述べる https://gyazo.com/8c55bf2d79458083997f74d44758043f
2. 最初の遺伝子工学実験とその意義
1950年代
DNAの二重らせん構造が明らかになる
これを可能にするするためには大量で純粋なDNAが必要となる
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この酵素はDNA配列の決まった所を切断し、しかもできたDNAは末端同士で簡単に接着するという性質がある
接着後にDNAリガーゼという酵素でDNA鎖を完全につなげれば、組換えDNAができる この実験法の作出は「ペニシリンの発見」「DNAの二重らせん構造の解明」と並ぶ、生命科学における20世紀最大の発見の1つとされる 任意のDNAを純粋かつ大量に得る
3. 遺伝子工学を発展させたエポック
DNAをヒトの細胞でも大腸菌でも増やしたり、DNAをもとに転写や翻訳をさせたり、タンパク質を細胞内で大量につくらせたり、染色体レベルの巨大なDNAを増やすといったことが次々と可能になった
記憶に新しいところでは、緑色に光るタンパク質の遺伝子を用いることで、目的タンパク質を細胞内で光らせることも可能になった(下村脩ら) 今では百塩基長ほどのDNAであれば簡単に合成できる
合成DNAはPCRプライマーや、遺伝子工学のためにDNA末端に付加するリンカー、あるいは突然変異を導入するための道具などとして、遺伝子工学にはなくてもならないものとなっている 任意の2点の間のDNAを増幅することができるこの技術は、耐熱性酵素の使用により可能になり、ノーベル賞受賞の頃には世界中に広まっていた 組換えDNA実験によらずDNAを増やせるこの方法は、遺伝子工学の可能性をさらに高め、DNAの検出に絶大な威力を発揮することになった
1990年あたりまでは、技術的困難さゆえ、タンパク質のアミノ酸配列情報が遺伝子工学の情報に変換されて利用される機会は少なかった しかし、微量タンパク質のアミノ酸配列が質量分析で容易に解読ができるようになると(田中耕一ら)事情は一変し、タンパク質から遺伝子情報を得る時間が大幅に短縮された 4. 遺伝子工学はどのように活かされているか
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物質生産
ゲノムを改変し、物質をつくらせたり増殖性を高めたりする 微生物を使わない物質生産の例
DNAの改変を通じてつくられるタンパク質を変化させることができる
個体改変
農業分野での利用が活発
ゲノム育種という取り組みの一環だが、この技術を使うと「青いバラ」のような、自然交配では決して得られないものまで作り出すことができる 畜産の分野でも応用されている
遺伝子工学を哺乳動物に応用する場合は発生工学、あるいは生殖工学といった技術もかかわる 遺伝子配列の検出
医療現場
遺伝子診断やゲノム解析、病原体の同定などに日常的に利用されている 一般社会
DNA配列の有無の検出を通して家系調査などの個人識別の強力なツールとして利用されている 治療
ヒトに特化した取り組み
RNAのなかには遺伝子発現制御機能、酵素活性、物質結合性をもつものがあり、RNAを使うRNA工学のなかで、遺伝子治療やRNA抗体などの材料として利用されつつある 分化させた組織を治療に使う再生医療や移植医療において、特定遺伝子を導入して作製したiPS細胞を分化させて治療に用いる試みは実際に進められている 5. 遺伝子工学の将来
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遺伝子構造解明のねらいの1つは、遺伝子の発現や機能の解明
ヒトゲノムは2000年に概要版が発表され、2003年には完全解読が宣言されたが、この情報をもとに、ヒト全遺伝子の発現や細胞内全タンパク質の種類を一挙に解析できるような技術が開発され、現在標準的な手法になっている 突然変異形質を材料に原因遺伝子を探し、そこからDNAに辿り着くという古典的遺伝学
個体がもつDNAを改変させ、それで生じる表現型から遺伝子の働きを見つける これは個体の遺伝子を染色体レベルでまるごと変化させる技術や、細胞工学、発生工学と呼ばれる技術の貢献があった 近年、爆発的にその利用が広がっているゲノム編集を中心とする特定遺伝子の改変・破壊技術は、逆遺伝学の流れをさらに加速させるに違いない